成金が募金をするが、名家は募金をしない理由

同じ金持ちでも、一代で巨万の富を得た「成金」は多額の募金をしますが、莫大な財産を受け継ぐといった「名家」は募金をしません。生物学者によれば、募金は成金が自身の「名声と信用を高める」ために行う合理的な投資なのです。

成金は名声と信用のために募金する

生物学者の吉村仁氏の著書「強い者は生き残れない」には、募金をする金持ちについて生物学の観点から次のように考察しています。

巨額の募金をするのはビル・ゲイツやウオーレン・パフェツトなどの一部の大富豪くらいのものだ。一方で、ケネディやロックフェラー、それからアメリカ南部の農園領主のヘースタイン家、ひいてはイギリスの女王や貴族などのように、同じように莫大な資産を持っている「名家」の人たちが巨額の募金をすることはあまりない。

(吉村仁・著「強い者は生き残れない」より)

吉村氏は「体の強い」生物が生き残るのではなく、「環境の変化に適応できる」生物が生き残ることを著書で紹介していますが、人間も同様に、生き残るために適応度を高めていることを次のように解説しています。

募金を通じて社会貢献すれば、知名度や信用が上がり、結果的に子孫にも利益が及ぶ。おかげで自分のためにお金を使うよりも、よほど個人の適応度を高められる。巨額の募金によって得られるものは、「名声と信用」だからだ。
(省略)
一代で巨額の財を成した者たちは積極的に募金をするのだと私は思っている。それは人類という種全体のためではなく、あくまで自分の適応度を高めるひとつの手だてとしてである。

(吉村仁・著「強い者は生き残れない」より)

名家は募金をしても適応度を高めることができない

一方、先ほど紹介した著書「強い者は生き残れない」では、名家が募金しない理由を次のように紹介しています。

 ところが、歴史ある名家は「成金たち」とは事情が違う。彼らにはすでに十分な知名度がある。彼らが巨額の募金をしても、適応度はさほど高くはならない。したがって、チャリティに出て行く必要があっても、彼らが募金する金額はその資産に比べた場合、多くはない。それよりも彼らは自分や一族を維持するために「投資」に力を入れる。そうすることが彼らの適応度から見て最適な選択だからだ。

(吉村仁・著「強い者は生き残れない」より)

ブラック企業で有名なユニクロの柳井正社長は、普段は社員の給与さえケチるのに東日本大震災の支援の際には10億円を寄付(募金)しましたが、三井や住友といった財閥の一族が寄付をした話は耳にしません。

つまり、お金のためならどんな汚いことをしていても、一代で成功した成金は犠牲を払ってでも自身の適応度を高める手段として募金を利用していることがわかります。